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(2015/08/10)

「天河神社」と「文楽・三味線」と「ドラム」

2015年7月16,17日に、奈良県天川村を通過した台風11号の大豪雨により、被害にあわれている方々に、心よりお見舞い申し上げます。

奈良県は山の奥の奥。吉野郡・天川村をご存知ですか?

その歴史は古く、南北朝時代の南朝にあたります。世界遺産・大峰山への山岳信仰の拠点としても、世界的に有名なパワースポット。調べれば調べるほど、深い歴史の中に包まれていることがわかります。

(photo by まーちんさん)

その村にある「天河神社」(天河大辨財天社)のこと。

“芸能の神様”で、多くの芸能人やアーティストにも有名なこの天河神社には、能楽の発祥のころから関わりのある「能舞台」があります。

実は私、今年8月20日の「七夕祭」の夜に、この能舞台での“ご奉納演奏”が決まっていました。七夕祭には、どのペンション・民宿も満室になるほど、多くの観光客が訪れる日で、とても楽しみに準備していました。

ところが!

今年7月末の台風11号の大豪雨の影響で、天河神社の周辺地域が多大な被害を受け、地すべりやがけ崩れの恐れが残っているため、七夕祭は中止ということに。私のご奉納演奏も、実現できなくなりました。 なんとも、なんとも、残念です。今年に入ってから、ずっと計画を練っていたので。

(photo by まーちんさん)

◆ ◆ ◆

その日の共演をお願いしている方がいました。ドラムとはまったく縁遠い「文楽」の世界から、太棹三味線・鶴澤清介 師匠です!
太棹三味線の、バチンと強力なアタック音、そして豊かな低音の魅力。それと私のドラムスとの前代未聞のデュオ! 世界的にも稀じゃないですか!?

「これは、珍しいサウンドが生まれる!」と楽しみにしていたのですが、自然災害なので、こればかりはしかたがない。
しかしながら、奉納演奏のお話でもなければ、文楽の方と共演できるチャンスなんてない。そこで、「本番こそ実現しませんが、リハーサルだけは、ぜひとも予定どおりやらせていただきたい!」とお願いしたのです。

そうして先日、滋賀県在住の鶴澤清介師匠と、東京での初めての御対面を果たしました。
文楽のあの腹の底から声をだす義太夫節で使用される三味線は、大型で音が大きく低音まで響く、この太棹(ふとざお)が使用されます。初めて実物を拝見し、もう興味津々です。

そして、音が出た瞬間、その迫力と表現力の豊かさに、心が震えました。さまざまなストーリー、感情や情景を“音”で表現し、浄瑠璃の“心を弾く”楽器。なるほど、これはまさに!

清介師匠も、ドラムと共演するとは夢にも思わず、「一体全体、どんなことになるのか!?」と、想像もできなかったとのことでしたが、一度音を出してしまえば、すぐに意気投合です。「おもろいね!」ということになりました。

ただ、漠然と音を出していても発展しません。いろんな情景やストーリーをお互いに提案し、そのイメージを元に、自由に音を出し合うことにしました。「夜明けの海辺」「ポツポツから大雨になり、人々も大慌て」「草木や虫の音」などなど、アイディアも飛び交います。

以前から私は、ドラムソロのライブやCDでも、そういう発想で演奏しているので、恐縮ながら、師匠とは相通じるものを感じ入りました。

なんとイメージ広がる時間でしょう!そんな風に、二人の即興セッションは続きました。

初めてお会いする師匠。気さくで、懐の深い、とても魅力的なお方でした。

(師匠)「もう60歳を越えたんだから、やれないことを引きずるより、やれることを楽しみなさい!って、言われますねん。」
(平井)「どなたに言われるんですか?」
(師匠)「私に。」
(平井)「??」
(師匠)「私が私に言いますねん。」(←自問自答のことのようです)「そしたら、肩の力が抜けて、ええ音が出ますねん。」
(平井)「なるほど!」

他にもたくさん素敵なお話をしてくださいました。

(師匠)「完璧な山のかたちをイメージして演奏していて、ちょっと歪(いびつ)なかたちになってしまったとしたら、とても悔やんだりしますやん。でも、聴いてる人にとっては、その目の前の歪なかたちこそが“全て”。つまりそれが“完璧”なものであって、それはその時にできたものなんだから、それはそれと受け入れなさい! あんたの勝手な“完璧”なんか、捨てなさいー!って、言われますねん。」
(平井)「どなたに?」
(師匠)「私に。」

こんな風に、40年を越えるキャリアの方なりの、悟りの境地があるのです。

「実力、レベルというのは、斜めにジワジワと上がっていくものではなくて、階段状に突然ステップアップする。あることがわかった瞬間に、すべてがわかる。霧が晴れたような感覚になる。」とも、おっしゃっていました。 プロ生活25年の若輩者でも、それなりに実感として「まさに!」と思えました。とても、貴重な時間でした。

これ以上のありがたいお話は、内緒にしておきます。

師匠から「いつでもかまわないので、天河神社にかぎらず、ぜひとも共演を実現しましょう!」と、何度も言っていただきました。これは、音楽的にも貴重な世界が生まれそうです。このチャンスを逃さないようにしたいと、強く思っております。

どうか、近い将来に実現しますように!!